2012年8月2日木曜日

新粒子発見に関するコメント


以下の内容は、私がニュートンという月刊誌からタイプしました。難しい内容も多いですが、まずはそのままタイプしました。先生方のお考えがわかって参考になると思います。すでにノーベル賞を受賞された先生方はどういうわけかお祝いの言葉程度ですが・・・佐藤博士や村山博士は詳しく話しておられます。佐藤博士の話の中に「物質粒子」という言葉があります。我々は粒子と聞くと、当然それは「物質」としての粒子だと考えます。しかし、ヒッグス粒子はそうではないのです。ですから、「粒子」という言葉を使うこと自体がすでに限界に来ているのだと思います。なにしろ、真空の中にぎっしり詰まっていると言うのですから。さらに、佐藤博士の言葉の中に、「真空の相移転」と言う言葉があります。これは表現は違いますが「異次元」と言っても良いような内容ではないかと思います。
いままさに、天動説から地動説、ニュートン理論から相対性理論へ変わった以上のパラダイム(世界観)の変化が起ころうとしているのだと思います。新しい酒は新しい革袋に、の聖句のようにいま新しい言葉が必要だと思います。


南部陽一郎博士
シカゴ大学名誉教授
「対称性の自発的な破れ」に関する業績で2008年にノーベル賞受賞

「ヒッグス粒子とみられる新粒子」の発見に対する率直な感想をお聞かせ下さい。

LHCがつくられた主な目的の一つは、標準モデルの中のヒッグス粒子を検証することでした。今回発見された新しい粒子が、本当にヒッグス粒子であるとはまだ言えませんが、大きな成果であり、めでたしめでたしです。

今後の物理学の発展にとって、今回の発見はどのような影響があると思われますか。

1960年ごろ、次から次へと新しい粒子が発見され、その結果、標準モデルが作りあげられました。歴史はくりかえされます。今回の新粒子発見に続き、同じようなことがまたおき、物理学が飛躍することを期待しています。

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小林誠博士
高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授
「CP対称性の破れ」に関する業績で2008年にノーベル賞受賞

「ヒッグス粒子とみられる新粒子」の発見に対する率直な感想をお聞かせ下さい。

物理学者達が長い間さがしてきた粒子であり、やっとみつかったと言うのが率直な感想です。実験グループの長い努力が実り、みつかってよかったと思います。

今後の物理学の発展にとって、今回の発見はどのような影響があると思われますか。

標準モデルの最後の未発見粒子であり、これが発見されると、歴史的な意義は大きいと言えます。このことに加えて、その先に、まだ新しい何かがあるのではないかと考えています。たとえばヒッグス粒子の種類が複数あるかどうか。あるいはほかの素粒子との結合の強さなど、ヒッグス粒子の性質をもっとくわしく調べて行く事で、新しい理論の方向性やヒントが見えてくる可能性があります。物理学は、新たな段階に入ったと言えるでしょう。

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益川敏英博士
京都産業大学教授
「CP対称性の破れ」に関する業績で2008年にノーベル賞受賞

「ヒッグス粒子とみられる新粒子」の発見に対する率直な感想をお聞かせ下さい。

あるべきものがあったのだな、という印象です。もし見つからなかったら、大事になります。研究者にとっては、そちらのほうがやりがいがあっておもしろかったというのが本音ではありますが。

今後の物理学の発展にとって、今回の発見はどのような影響があると思われますか。

現時点では、まだ未知数と言えます。物理学の発展の歴史をふりかえると、大きな発見があった場合、必ずそれに付随していろいろなものがみつかってきました。今回の発見によって、物理学は飛躍すると思います。続報に期待したいですね。予測よりも、ヒッグス粒子とみられる粒子の質量が比較的軽かったので、このことが何を意味するのかということが重要となるでしょう。

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佐藤勝彦博士
自然科学研究機構 機構長

「ヒッグス粒子とみられる新粒子」の発見に対する率直な感想をお聞かせ下さい。

今回の発見がヒッグスの発見ならば、長い間待ち続けていた発見であり、理論物理学の大きな成果です。ただし、ヒッグス粒子の発見は質量の起源を説明する「場」の発見とばかり報道されていますが、宇宙論的には、「真空の相移転」という概念の裏付けが得られたということで、この方がより重要なのではないでしょうか。南部先生の「対称性の自発的な破れ」を、別の表現であらわしたのがヒッグス場です。私やアラン・グース博士が提唱した元祖インフレーション理論は、大統一理論でのヒッグス場によって、インフレーション(宇宙初期の急激な空間の膨張)が引き起こされるというものでした。インフレーションを引き起こす場についての理論は現在混沌としていますが、真空のエネルギーが高い状態から低い状態にころがり落ちることによってひきおこされることにはかわりありません。ヒッグスの発見は、インフレーション理論に支持を与えるものだともいえます。いずれにせよこの発見は「真空の相移転」という概念を大きく支持するもので、宇宙論的意義は大きいと言えるのではないでしょうか。

今後の物理学の発展にとって、今回の発見はどのような影響があると思われますか。

ヒッグス粒子の発見はこれまで存在が知られている物質粒子(クォークやレプトン)や力を媒介する粒子(光子など)ではない、新しいタイプの基本粒子、「スカラー粒子」の発見であり意義は大きいです。インフレーションを引き起こす「インフラトン」も、現在の宇宙を満たし空間の加速膨張を引き起こしている「ダークエナジー」も、ともに正体不明ですが、現象的にはスカラー場によるものと考えられています。両者を結ぶ理論の展開が期待されているのではないでしょうか。
また、LHCのもう一つの目的である超対称性粒子が発見されたなら、自然界に存在する基本的な四つの力(電磁気力、強い力、弱い力、重力)をすべて含んだ超大統一理論の構築にも、新たな展開が期待できるのではないでしょうか。

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村山斉博士
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)機構長

「ヒッグス粒子とみられる新粒子」の発見に対する率直な感想をお聞かせ下さい。

たいへん興奮しています。そもそも、「電磁気力」、「強い力」と私たちの理解が進んで来たのは、それぞれ半世紀がかりの仕事でした。いまやっと「弱い力」の理解に進もうとしていることがはっきりし、1世紀に2回しかないような大きなステップだと言えます。歴史の重みを感じます。
また、ヒッグス博士の1964年の予言を確かめるため、1984年から計画がスタートし、2001年にLHCの建設を開始、そして2012年のいま、やっとここまで来ました。実験物理学の努力の結晶でもあります。この瞬間に居合わせることができて、物理学者冥利につきます。

今後の物理学の発展にとって、今回の発見はどのような影響があると思われますか。

ヒッグス粒子はそもそも標準モデルの異端児で、唯一スピンを持たない素粒子です。ですからヒッグス粒子が発見されると、標準モデルを完成させるという一つ「終わり」であると同時に、まったく新しい種類の素粒子のグループの「はじまり」だと私は考えます。「なぜこんな特殊な粒子が存在するのか」、「なぜそれが宇宙につまっているのか」、「真空とはいったい何なのか」、「真空のエネルギー、ダークエネルギーとどう関係しているのか」と言った深い疑問が続々と出て来ます。今後の素粒子物理学がますます面白くなると考えます。
そのため、今回みつかった粒子がほんとうに「標準モデルで予言される」ヒッグス粒子であるのか、また若干ちがった性質をもつのか、特定していく必要があります。当然LHCで研究を進め、いずれILC(計画中の全長30Kmの直線状の加速器)などで決定的な精度での実験が必要になってくると思います。









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